今日のテーマは、『医療制度改革に逆行し、高額化する医薬品市場』です。
昨日の公式ブログでは、
今後、『3年間』を目処として安倍内閣が推し進める、
『医療制度改革』についてのテーマを取り上げました。
現在、
『日本経済』は危機的状況にあり、解決は難しいまでも、
少しでも先送りする為に、政府としては対策を打たないといけない。
ただ、
その『対策』自体はとてもシンプルな理屈で成り立っていて、
国家としての『歳入』を増加させて、『歳出』を減らせば良いのです。
この辺り、『国家』であれ、『個人』であれ、
組織の規模は違えど、解決方法自体は同じことですね。
そして、
『歳入の増加』というのは、シンプルに『税収を上げること』で、
これは、来年10月に控える『消費増税』等でも進行しつつあります。
しかし、
もう一方の『歳出の削減』は難航どころか、逆行していて、
毎年毎年、『国家予算』は膨張し続け、最近では『100兆円』の大台を突破しています。
これを改善する為には、
『歳出』の大きな部分を占める『社会保障費』の対策が必須ですが、
首相の発表が本当であれば、政府はようやくこの分野にメスを入れることになります。
『公的年金の受給開始年齢引き上げと、受給額の減額。』
『公的年金の受給者要件に、所得・保有資産要件を追加。』
『健康保険の適応疾患・医療行為の削減。』
『健康保険適応における、所得・保有資産要件の新設。』
具体的には、このような事が長期的に導入されてくるのではないかと予想します。
それで、
政府がようやく本腰入れて対策を始めた『医療制度改革』ですが、
『医療用医薬品』の市場においては、現在、『逆行』とも言える現象が起こっています。
ご存知頂いている方もいらっしゃるでしょうが、
私自身、30歳で独立・開業を迎えるまで、会社員として、
20代の7年間お世話になったのは、金融機関ではなく製薬企業でした。
その退職間際の2014年、
多くの面で業界を震撼させる画期的な薬剤『オプシーボ』が登場します。
当初、
『悪性黒色腫(メラノーマ)』の適応で上市された同薬剤は、
世界初の『免疫チェックポイント阻害薬』として、臨床でも驚異的な効果を発揮。
その後、
『非小細胞肺癌』等、順次『適応疾患』が拡大されていきますが、
それ以上に、業界・世間のご度肝を抜いたのは、その薬剤が持つ『超高額な薬価』です。
その額、
実に、上市された当時で『ニボルマブ100mg1瓶』に対して『36万4925円』(笑)
もう、本当に、笑ってしまう金額ですね。
2015年、前述の『非小細胞肺癌』への適応が拡大された際などは、
財務省の財政制度分科会では、国内の適応患者全てに同薬剤を使用すると、
薬剤費だけで『年間1兆7500億円』かかる事が試算されました。
これ、『オプシーボ』という薬剤だけでこの金額です。
流石に、
これらの発表のインパクトもあってか、その後、
同薬剤の『薬価』は、急激なスピードで改定されていきましたが、、、、。
*患者さん、ご家族が負担される際の『高額療養費制度』等の話は、
『国家財政』全体の話とは逸れる為、ここでは触れない事にします。
しかし、
私の個人的な実感では、この時の『オプシーボ』が発端となり、
世界市場も、日本市場も、一挙に『高額薬剤ブーム』が到来したと感じるようになりました。
例えば、
(*一時期、不祥事で有名にな理ましたが)ノバルティス社では、
米国名『キムリア』で販売される『白血病治療薬(バイオ新薬)』の、
日本市場上市を2018年内に控えていると言われています。
この薬剤を使った場合、
既に上市している米国では、治療1回につき『5200万円』の値が付いており、
8月末に承認された欧州でも、『4000万円以上』の値が付くと見込まれます。
日本においても、
新規承認時の『薬価』については、
先に承認を受けた『米国』『欧州』に『右に倣え的な慣習』があり、
このまま行けば、大きく乖離した『薬価』がつくことは無いでしょう。
その他、
リンパ腫治療薬の『イエスカルタ』、網膜疾患の治療薬『ラクスターナ』等、
海外で既に承認を受けており、日本市場上市を目指す高額薬剤が控えており、
これらが登場した暁には、日本の『医療費』は大爆発を起こします。
確かに、
私自身、大学では『理学部化学科』に在籍していたこともあり、『素人ながら』、
その開発過程では多大なる人件費、労力、研究開発費が費やされているのはわかります。
『有機合成』における再現性は、一般的に想像されるレベルを超えて低く、
『新化合物』を生成するだけでも、吐き気がする程の苦労を伴います。
その上、
その『新規合成物』が生成できたとしても、
実際に承認に至る『薬剤』まで辿り着ける確率は、『1万分の1(*)』を超えると言われ、
もはや、私レベルではどういった次元のものなのか想像すらつきません。
*私が製薬企業に入社した10年前当時の数字なので、
現在では、もっと『シビア』な数字になっている事が予想されます。
このような状況を受けて、新たに承認まで漕ぎ着けることが出来た薬剤は、
製薬企業有利に働くよう、『高薬価』が付けられるのが最近のトレンドです。
しかし、
それを『はい、そうですか』と受け入れて、
何でもかんでも『適正使用』していては、国家財政が破綻してしまいます。
事実、
それを懸念した英国などは、それぞれの薬剤の『費用対効果』を算出し、
薬価が一定基準を超える薬剤は、『公的医療』から除外する動きが広まっています。
この決断は、個人的には、とても正しく、合理的だと考えます。
日本が進める(であろう)『医療制度改革』に対して、
全く『逆行』するような、医療用医薬品業界の『高額化トレンド』。
国民一人一人が、自分のことだけでなく、広い視野を持ち、
『国家レベル』での最善を模索しながら、進んで行くことが大切だと考えます。
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代表 井上耕太