今日のテーマは、『みんなで大家さん提訴報道に感じる、日本人の金融リテラシー向上の必要性』です。
先日、某メディアにて『みんなで大家さん』なる不動産投資商品の出資者に対する分配金が遅延しているという報道がリリースされました。
数年前まで、テレビCM等でも大々的に宣伝されていたため、その名前(みんなで大家さん)に聞き覚えのある方もきっと多くいらっしゃると想像します。
基本情報のみ整理すると、不動産投資(土地・建物等)を小口化して広く投資家から資金を集めて、該当案件から収益が発生したら、それぞれの出資額に応じて分配金(配当)を分け合う仕組みです。
募集の際に提示されていた想定利回りは、実に『年率7%』と言いますから驚愕です。
先日の記事中でも触れましたが、メガバンクの普通預金金利が0.20%(税引き前)に留まり、国債利回りがようやく1%に到達しようという時代、それを遥かに凌駕する破格の想定リターンです。
当然ながら(?)この数字は世間の人々の欲望のスイッチを押すこととなり、今回の報道に至るまで、約3万7000人の個人投資家から総額2000億円以上を集めるまでに急拡大していました。
中には、40年間の会社員生活でコツコツ貯めてきた老後資金を1億円近く溶かしてしまい(1%未満の一縷の望みはありますが)、定年退職後にすってんてんになってしまった方もいると言います。
仮に、想定利回りが実現すれば年間600ー700万円の配当収入があった訳ですが、それが(元本も含めて)ゼロになってしまったことで、その方が変な気を起こしていないか心配してしまいます。
もしかしたら覚えてくれている読者もいるかも知れませんが、問題が明るみになる以前から、私は公式ブログを通じて名指しでこの案件(みんなで大家さん)が孕むリスクを指摘してきました。
なぜ、そのような予言が出来たかと言うと、私が未来を正確に見通せる『千里眼』を持つからではなく、少しでも金融・経済の知識・常識がある人たちには直ぐに見抜ける綻びがあったから。
常々お伝えしていますが、出資元本を保証しながら、確定(同等のニュアンスを含む)で『年率7%』の配当・分配金を生み出し続けられる案件など、投資対象が何であれこの世に存在していません。
繰り返しになりますが、メガバンクの預金金利が0.20%に留まり、10年もの日本国債の利回りがようやく1%に達する時代、どうすれば『年率7%』もの配当を支払い続けることが出来るでしょう。
当然、中枢の人間はそれが成り立たない事実を理解しながら、大々的にメディアCMを打つことができる、この国(日本)の広告規制の甘さ・緩さにも強い憤りを感じていますが。
ちなみに、この案件(みんなで大家さん)と同等の利回りを元本保証の国債に求めるのであれば、2025年現在、ハンガリーの10年もの国債(年率7.140%)に出資しなければなりません。
ただし、同債券の信用格付けは大手2社(スタンダード&プアーズ、ムーディーズ)とも『BBB格』としており、今後の経済見通しについても『ネガティブ』で一致しています。
さらに、2011年、実質的にデフォルトしたギリシャ国債(年3.376%)の2倍の利回りがついていますから、市場が見込むデフォルト(債務不履行)リスクも相当高いことが分かると思います。
果たして、みんなで大家さんに出資した投資家の方々は、投資対象が『ハンガリー国債』であっても同等の金額を出資したのでしょうか。
もちろん、世の中には様々な職業・業界があるため、すべての人たちが金融のプロフェッショナルになるべきだとは思っていません。
しかし、現代社会を生きるうえで『お金』は必須のツールであるため、最低限の知識武装が不可欠だということは事実だと考えます。
井上耕太事務所(独立系FP事務所)
代表 井上耕太