今日のテーマは、『南海トラフ地震をめぐる政府対応から、私たち個人投資家が学ぶべきこと』です。
先日26日、政府の地震調査委員会は駿河湾〜日向灘沖のプレート境界を震源とする南海トラフ地震について、今後30年間の発生確率を『60〜90%程度以上』とすることを発表しました。
これまで、同地震の発生確率は今後30年間で『80%程度』とされてきましたが、数字(表現?)の若干の改訂を受けて、ますます訳が分からなくなってきた感が否めません。
私自身、今回の改訂発表には大きな違和感を覚えましたが、タイムリーにも専門家の意見を聞く機会に恵まれて、全体を通して合点がいったので少しだけシェアしたいと思います。
先ず、ことの発端は半世紀以上も前に遡り、当時の政府・専門家たちが『巨大地震の発生は(ある程度)予測することが出来る』と言ってしまったことに原因があるとのこと。
そして、その頃から問題視されていた『南海トラフ地震』の発生時期を特定(予測)すべく、国家を上げて莫大なヒト・モノ・カネを投じることで地震研究が行われてきました。
しかし、いつまで経っても『南海トラフ地震』は来ないどころか、阪神大震災、東日本大震災、熊本地震、北海道胆振東部地震、能登半島地震など他の地域の強い揺れを予測することすら出来ません。
2025年現在、専門家の中では『地震の発生は正しく予測できない』ということが常識ですが、これまでに費やした莫大なコスト(ヒト・モノ・カネの全て)を考えると見切りが付けられないのだとか。
それ故、国家の中枢に位置する人たち(官僚)や頭の良い人たち(学者・専門家)が集結したにも関わらず、冒頭で触れたような滑稽な予測(60%から90%程度以上)をするに至ったと言うのです。
そんなことをするよりも、前提条件(地震はある程度の予測ができる)の誤りを潔く認めて、国民に対して建設的な対処法を発信した方が、日本国全体の国益に繋がると感じるのは私だけでしょうか。
ちなみに、昨年(2024年)8月8日に発生した日向灘地震の際に発令された『南海トラフ臨時情報』はまったく意味を持っていないそうです。
実際、これ(南海トラフ臨時情報)が発令される間、該当地域の住民は避難を強制される訳ではなく、あらゆる施設が休業を要請されたり、大部分の経済活動がストップされる訳でもありません。
要は、もしも本当に『南海トラフ地震』が起きてしまった際、政府として『何もしてませんでした』では責任が問われてしまうため、それを回避するための形式的な注意喚起に過ぎないとのこと。
如何にも、お役所勤めの人たちが思い付きそうな思考プロセスですよね(笑)
前置きが長くなりましたが、今回示した事例のように、過去に費やしたコストに囚われて未来の利益を失う(若しくは損失を増大させる)現象は『サンクコスト効果』という言葉で知られています。
大企業等のなまじ経済的体力のある組織が、長年稼動させてきた『不採算部門』をなかなか清算できない理由も正しくそれに該当していますよね。
このことは、私たち『個人投資家』という立場でも学ぶべきところがあります。
例えば、長年保有して(含み損を抱えて)塩漬けにしてしまっている銘柄を、なかなか処分(売却)できないことなどが典型的です。
もちろん、将来的に思い描くシナリオ(希望的観測ではなく)があるなら話は別ですが、何も算段がないのであればその処遇は早急に検討すべき課題だと考えます。
人生全般においても、投資においても、定期的な棚卸しは必要不可欠。
サンクコスト(過去に費やしたコスト)に固執すると、未来の『大きな利益』を失うことになるのです。
井上耕太事務所(独立系FP事務所)
代表 井上耕太