今日のテーマは、『米国のエリート人材に訪れた就職氷河期から、私たちが学ぶべきこと』です。
つい先日、強く関心を引かれるニュース・リリースを目にしました。
それは、かつて(と言っても割と最近まで)は『エリート人材』の象徴の一つとされた、米国の大学でコンピューター・サイエンスを専攻する学生たちの失業率が急激に上昇しているというもの。
現在、米国内は生産年齢人口全体の失業率が約4.0%と歴史的低水準にありますが、大学卒業(学位・修士)直後の22〜27歳の若年層に限定すれば、その数字は5.8%まで跳ね上がります。
さらに、前述した旧エリート層(コンピューター工学専攻)の失業率は7%前後に達するとの調査結果もあり、全体平均(4.0%)と比較するとダブル・スコア近くの劣勢に立たされています。
従来であれば『潰しの効かない学問』の代表格である哲学専攻の学生の失業率が3.2%に留まると言われますから、実用性の筆頭格である彼ら・彼女らが就職できない現実は強烈な皮肉ですね。
元々、初任給として10万ドル(約1500万円)はくだらないとされた旧エリート層ですが、某・地方名門大卒の学生は就職期間中で面接に呼ばれたのはファストフード店だけだったと回答しています。
このリアルな声が、彼ら・彼女らが直面する事態の深刻さを分かりやすく示しています。
と言っても、主要な就職先である大手・ITテック企業たちが、業績不振により新卒採用を控えているという訳では決してありません。
むしろ、本場・米国を中心にITテクノロジー業界は活況を呈しており、先日の記事で指摘した世界的株高でも、これらの業界はマーケット全体をリードして力強く牽引しています。
それでは、なぜ旧エリート層に『就職氷河期』が訪れているのでしょうか。
もちろん、理由は様々ありますが、最も大きなものの一つは生成AI(人工知能)という新技術の台頭により彼ら・彼女らが担うはずだったプログラミング・コードの作成等が代替されるようになったから。
当然ですが、すべての企業はボランティアで活動している訳ではなく、新技術(生成AI)で代替可能であるなら、高額なコスト(人件費)を支払って『エリート』を採用する必要性はありません。
実際に、マイクロソフトやグーグル等のリーディング企業ほど新しい技術の導入は積極的で、旧エリート層の彼ら・彼女らは、突如として就職の第一志望・第二志望を失ったことになったのです。
これは、資産形成(投資)やビジネスの分野でも有名な格言ですが、あらゆる分野のトップ・ランナーほど、ゲーム・チェンジが起きて進行方向が逆になると途端に最下位グループに転落してしまいます。
そして、今回取り上げた生成AI(人工知能)は決して特別な事例ではなく、これまでも新技術の開発・普及により、世の中から消滅してしまった職業は歴史上にゴマンと存在するということ。
また、凡ゆる分野に共通して米国の変化は、数年遅れで日本にやって来ることも意識すべきですね。
資産形成(投資)をしている・していないに関わらず、また、事業を営む立場にある・ないに関わらず、私たちは常に世の中の変化にアンテナを張り続ける必要があると考えます。
生物学者・ダーウィンが残した有名な格言『強いものが生き残るのではなく、変化に適応したものが生き残る』は私たちが今まさに思い出すべき言葉の一つなのかも知れません。
井上耕太事務所(独立系FP事務所)
代表 井上耕太