今日のテーマは、『超富裕層に対する追加課税の対象拡大により、国家の魅力は高められるか』です。
年の瀬、来年度(2026年度)の税制改正に関する報道が続いていますね。
先週末にリリースされた話題で興味を惹かれたのは、政府・与党が超富裕層に対して追加の税負担を求める制度の対象を拡大する方向で調整に入ったというものです。
現行ルールでは、追加で課税される所得(*)の目安は年間30億円ほどとされてきましたが、こちらのハードルが大きく引き下げられるものと見られています。
*基本中の基本ですが、『収入』と『所得』の違いが分からない方は自己学習してみてください。
ご存知の通り、原則として日本の所得税は累進課税制ですが、総合課税・分離課税の違いもあり、年間所得1億円前後を境として税負担率が漸減していく『1億円の壁』が問題視(?)されていました。
実際に、年間所得が5000万円ー1億円のレンジにある方々の平均25.9%をピークに税負担率の推移グラフは下降して、年間所得10億円ー20億円のレンジでは平均20.1%まで減少します。
*誤認してはいけないのは、税負担『率』の数字が低下しているだけで、富裕層の税負担は決して軽いわけではないこと。上記データを考慮すると、年間所得1億円の人の所得税が約2600万円であるのに対して、年間所得10億円の人は所得税だけで年間2億円超も負担していることになります。
少しだけ振り返ると、超富裕層に対して追加の税負担を求める制度は2023年に導入されました。
現行ルールでは、年間の合計所得から特別控除(3.3億円)を差し引いたものに22.5%を乗じた金額を基準にして、従来の方法で算出された所得税を上回る場合、差額を追加で納税する仕組みになっています。
今更ですが『超富裕層』の定義を確認すると、社会全体で明確に定められた基準はないものの、野村総研が定義する金融純資産(現金・株式・債券等ー負債総額)が5億円超の世帯が汎用されています。
そのような世帯(純資産5億円超)が日本国内には8.7万世帯あると言われたら意外に多いと感じますが、全体に占める割合は0.16%ほどに限られるため狭き門ですよね。
ただ、保有資産が5億円を少し超えた程度(?)で年間30億円もの所得を築ける訳もなく、今日のテーマで話題にあがる『超富裕層』は全国でも200ー300人ほどしか存在しないと言われています。
政府・与党としては、この対象を拡大して彼ら・彼女らからがっぽり徴税することで、各方面で膨張しつづけている国家運営コストに充当しようと考えています。
果たして、この選択は日本国にとってポジティブに働くのでしょうか。
幸いな事に(?)私自身はそれ(年間所得30億円)に該当しないためルール変更の影響をまったく受けませんが、今から起ころうとしている変化についてはネガティブに捉えています。
何故なら、超富裕層に対する課税を強化することで、中長期的視点では彼らの出国リスクを高めることになり、海外からの富裕層の新規流入に対しては大きな阻害要因になるからです。
世界に目を向ければ、(超)富裕層・巨大企業を呼び込むため国家戦略としてオフショアを導入している国・地域もありますが、日本がしようとしていることはそれとは正反対の戦略ですね。
また、仮に実現したとして、極少数の超富裕層から追加徴収した税金が、どこまで国家財政にポジティブに作用するかも非常に疑わしい。
振り返るとかなり昔の話に思えますが、岸田政権下、日本は東京を中心に『金融都市構想』を掲げており、世界から実利のあるヒト・モノ・カネを呼び込もうと画策していました。
私見では、日付変更線を最初に跨ぐ先進国として大きな地理的アドバンテージをもつ日本はその可能性があったと見ていますが、その後は中身が何も話し合われないまま立ち消えになっています。
内向きに、その場凌ぎで財源を確保しようとする国家に明るい未来はない。
日本の懐具合は、物理的にも精神的にも冷え込みが見られるようになってきました。
井上耕太事務所(独立系FP事務所)
代表 井上耕太





