今日のテーマは、『迷走がはじまった新NISA制度は、金融の世界における国家総動員法か』です。
先週、新NISA制度に関する迷走報道が立て続けにリリースされました。
一つは、高齢者向けのNISA制度を創設して、これまで除外してきた毎月分配型ファンド(投資信託)を投資対象として解禁するというもの。
もう一つは、現行制度では18歳以上とされる年齢制限を撤廃して、口座を開設できる対象を未成年にも拡大する税制改正要望を視野に入れるというもの。
結論からお伝えすると、どちらも『世紀の愚策』だと言えます。
予めお断りしておくと、私自身、それまでのルールを刷新して2024年からスタートした『新NISA』についてはシンプルに肯定派です。
話が逸れるため、制度の詳細を説明することは避けますが、最大で年間360万円を拠出することができ、配当・譲渡益とも恒久的に無脆化されたその仕組みは投資の真理を体現したものと言えます。
誤解を恐れず言えば、『使い方』さえ間違わなければ、再現性よく誰もが資産を構築することが可能。
もちろん、これを活用するだけでファイナンシャル・フリーダム(経済的自由)を実現することは無理ですが、老後資産2000万円問題の解決くらいは出来るのではないかと考えます。
実際、私も2024年の新制度からは本格的な活用をスタートして、つみたて投資枠・成長投資枠とも積極的に資金を投入している。
目下、トランプ・ショックにより積み上げた含み益をほぼ吐き出した状態にありますが、未来永劫それが続く訳もなく、長期的視点ではまったく悲観していません。
新たに出てきた迷走報道に話を戻すと、前者(毎月分配型ファンドの解禁)については、明るい方々は理解されると思いますが、新NISAの根幹を揺るがすことになる大改悪。
何故なら、大半の人たち(高齢者)はファンドからの配当を『運用利益』と錯覚しますが、ただ単に『元本部分』を取り崩している場合も多く、運用資産は確実に減ることになるからです。
ファンド手数料(信託報酬等)まで加味したら、ゼロ金利の銀行預金を取り崩すほうがまだマシで、何のために投資をしているか分からなくなる愚の骨頂と言うべき戦略です。
改悪の目的は、現在、殆ど運用されていない高齢者(65歳以上)の保有資産をマーケットに呼び込むことで、日本の株式市場をいくらか底上げすることでしょうか。
前者も相当ですが、後者(年齢制限の引き下げ)も正気の沙汰ではありません。
金融庁は、改悪する表向きの理由を『若年層の金融リテラシー向上』と謳っていますが、未成年の資産をマーケットでリスクに晒す提案が、人として倫理的に正しいかは大いに疑問。
もし仮に、本当に『若年層の金融リテラシー向上』を国家戦略として目指すのであれば、先ずは教育の現場から導入すれば良く、実際に『お金』を失う必要性はまったくありません。
私自身、資産運用・投資の世界に身を置いて20年近く経ちますが、その経験則から考えても、適切な投資判断をする年齢として18歳未満は若過ぎる。極一部の例外を除いて、99.9%の子供たちが資産を失います。
今回リリースされた改悪報道は、第二次大戦中の『国家総動員法』に重なります。
政治家・官僚たちは、自らの通知表(評価項目)である日本市場の株価上昇のため、なりふり構わず『蛮行』を始めようとしています。
井上耕太事務所(独立系FP事務所)
代表 井上耕太