今日のテーマは、『ポーカーをして、誰がカモか分からなければそれはあなた自身である』です。
タイトルで紹介したフレーズは、現代を代表する投資の神様として有名なウォーレン・バフェット氏が昔から好んでいるシニカルなジョークです。
もちろん、それは実際にポーカーをプレーする場面についてのみ言及しているのではなく、資産形成(投資)の世界にもそのまま通じることを意味しています。
例えば、投資対象は様々ですが、銀行・証券をはじめとした金融機関はよく『初心者向けの投資商品』なるものをリリースして大々的に宣伝することがありますね。
何故なら『初心者向け』という言葉を使うと、決してそのようなことは明言しなくとも、リスクが低く・リターンを得られる可能性が高い印象を相手に想起させることが出来るからです。
しかし、残念ながら投資の世界で素人(初心者)とプロ(玄人)が別々のフィールドでプレーしているという話は聞いたことがなく、必然、そんなもの(初心者向けの投資商品)は存在していません。
つまり、前述のフレーズが使われた対象に手を出すことは、自らが『カモ』であることを自発的に名乗り出ていることと同義だと言えるのです。
先日も、某クレジット会社から前月分の支払い明細に同封される形で、次にご紹介するような案内が届きました。
どうやら対象は不動産(マンション一棟もの)のようですが、綺麗に印刷されたパンフレットには、投資すべきポイントが整理されて耳障りの良い言葉が並んでいます。
①リスクを抑えた商品設計。
→投資家からの募集分と同額を胴元が出資しており、仮に保有物件の売却価格が元々の取得価格を下回った場合は、胴元の出資部分が投資家からのそれに先行して毀損される仕組み。
②最低額として10万円から出資が可能。
→1口5万円として2口(10万円)から出資が出来る。以降5万円(1口)毎に出資額を上乗せすることで希望額に対して柔軟な出資が出来る。
③クレジットカード利用で貯めたポイントも充当可能。
④取得後、保有する上で特に必要なフォローはなく、出資額に対して年率3%の配当金が期待できる。
⑤投資対象は東京23区内の魅力的な物件に限られるため、空室リスク・物件の価格下落リスクが最小限に抑えられている。
⑥新たな証券口座等を開設する必要もなく、スマートフォンから簡単に手続きを完結できる。
確かに、日銀・黒田政権下で展開された『ゼロ金利』の呪縛から解放されたと言えど、メガバンクの普通預金金利が0.20%(税引き前)前後に留まっている時代です。
その15倍に相当する利回り(年率3%:想定値)の配当金を提示されれば、特に『初心者向けの投資商品』に群がってしまう方々には魅力的に映るのかも知れません。
実際、100万円を預け入れるケースを考えた時、前者(銀行預金)は年間2000円の利子しか発生しませんが、後者は年間3万円の配当金を受け取ることが出来るポテンシャルを秘めます。
(*どちらも税引き前の話です。)
この2選択肢に限定して『どちらが良いですか?』と質問されれば、その答えは自明ですよね。
しかし、もしもここまでの話を聞いて、ワクワクしたり・想定されるリスクを一つも思い付かないとしたら、あなたは間違いなく『カモ』であると断言することが出来ます。
些末なものまで挙げ始めると際限がありませんが、私が最も気になった点は出口戦略、つまり、投資家が出資した元本部分についてはいつ、どのように償還されるのかというポイントです。
目論見書に目を通すと、該当の投資プロジェクトの想定運用期間は5年間とされていますが、当然、投資家が共同保有する物件が5年後に消えてなくなる訳ではありません。
最終的には『売却益』を得ることを狙うプロジェクトのようですが、当然ながら、胴元が『出口』を確定するまでの期間(償還を迎えるまでの期間)は出資元本はフィックスされることになる。
また、これは金融商品に該当するため所謂20%課税の対象であり、先ほど提示した想定利回り(年率3%)は実質的には約2.4%にまで落ち込みます。
それを考慮すると、仮に100万円を出資したとして、元本部分の流動性を放棄して年間2.4万円を受け取るディール(取引)は本当に魅力的なのでしょうか。
この程度の利回りであれば、NISA口座を活用して有価証券に投資すれば、資金の流動性を確保したうえで余裕で達成することが出来ますよね。
タイトルの繰り返しですが、ポーカーをして誰が『カモ』か分からなければそれはあなた自身だ。
資産形成(投資)の世界は魑魅魍魎が跋扈していることを、私たちは決して忘れてはいけません。
井上耕太事務所(独立系FP事務所)
代表 井上耕太