今日のテーマは、『かかりつけ医(開業医)の待合室が、高齢者の社交場と化した時代の終焉』です。
奇しくも、先週リリースした3記事は日本の社会保障制度にフォーカスしたものになりました。
連続したので一旦終了しようと考えていましたが、週末に重要な続報が出て来たためもう1記事だけ追加で配信したいと思います。
厚生労働省は、医療費が高額になった際の自己負担を抑制する高額療養費制度をめぐり、70歳以上の外来受診費の負担を軽減する『外来特例』を見直す方向で調整に入ったことを公表しました。
70歳以上・単身・年収約380万円を下回る人をモデル・ケースとした時、現行ルールでは外来受診費の上限が月額1万8000円で打ち止めとなり、以降は『通院し放題プラン』に切り替わります。
また、年収要件の項目が『住民税非課税世帯』となると外来受診費の上限は月額8000円となり、(医療費に関して言えば)更なる負担軽減効果を発揮することになります。
2025年現在、年間1回以上、外来特例の対象者となる高齢者は全国に約600万人(70歳以上人口の約21%)も存在しており、制度を廃止すれば年間3400億円もの社会保障(医療)給付が削減できる。
流石に、外来特例を突然廃止することはないでしょうが、これまでのように生温いルールではなく、年齢に関わらず、年収に応じて相応の自己負担を強いる制度に変更されていくことは必至です。
もちろん、『多くの疾患を抱える高齢者に適切なセーフティ・ネットを!』という意見も理解しますが、日本の社会保障制度改革が待ったなしのところにあることは先週の記事でも述べたとおりです。
外来特例の基準を高めることについては、個人的に賛成します。
それは、20代で経験したMR(医薬情報担当者)時代、かかりつけ医(開業医)さんを中心とした病院の待ち合いが、あたかも高齢者の社交場と化している場面を幾度となく目にして来たからです。
もしかすると、表面上は窺い知れないこともあるのかも知れませんが、受診の必要性がそれほど高くなさそうな(同じ顔ぶれの)高齢者が毎週のようにクリニックに集結していました。
ある時、患者さんたちの会話に耳を傾けると『最近、◉◉さん見ないな?』『なんか体調崩してるらしいで』との声も聞こえて来ましたが、日本の財政状況を考えると笑い話にもなりません。
*この会話が交わされているのは病院の待ち合いであり、本来であれば体調を崩した時こそ(そのとき限定で)来るべき場所です。
この件(外来特例)に限らず、全体的な議論として、日本の社会保障システムは給付を減らすしか制度を維持していく方法はありません。
年金支給を漸減していく、健康保険は窓口負担の1割・2割特例を廃止して、原則として国民一律3割負担を導入する、そして、本日話題にする外来特例についても段階的に削減して廃止する方向へ。
もちろん、実行の過程では対象となる高齢者だけでなく、開業医・病院、製薬・医療機器・検査の各社、卸業者や薬局まで含めた関係各所から少なからぬ反発はあることでしょう。
しかし、真に国家としての未来を考えるのであれば、このスタンス(全体的な社会保障給付を削減する)を貫いていくしか解決方法は有り得ないのです。
かかりつけ医・病院の待ち合いが高齢者の社交場と化す時代の終焉、その役目は地域ごとにあるコミュニティー・カフェ等で十分なはずです。
井上耕太事務所(独立系FP事務所)
代表 井上耕太





