今日のテーマは、『富裕層に対する課税強化により、国家財政が立て直せるという主張は真実か』です。
昨日の公式ブログでは『なぜ、日本の国家財政は借金体質から抜け出すことが出来ないのか』と題して、日本の財政は危機的状況あり、残念ながらそれが改善する見込みはないことを紹介しました。
簡単に数字を整理すると、年間約600兆円のGDP(国内総生産)に対して、国債とその他諸々を含めた累積債務の総額は1300兆円を突破しており、今尚増え続けています。
因みに、対GDP200%超の債務を積み上げて無事に済んだ国はこれまでになく、歴史が示す事実と照らし合わせるだけでも自らが置かれた立場を理解することができますよね。
もちろん、対外純資産のほか国内に保有している資産もあるため純負債額は上記(1300兆円超)より小さくなりますが、身の丈を超えた借金経営を続けているという点では変わりません。
また、年間40兆円を超える規模の赤字国債を発行することが恒常化していることも問題で、一時的な対策(金融危機・新型コロナ禍等)としてならまだしも、返済のアテなく積み上げ続けることはリスクを孕みます。
しかし、政府・官僚サイドも国民サイドも茹でガエル化してしまった結果、私たちはこれらのリスクに対して体感する能力が著しく低下してしまっているのが実情です。
先日、参院選があったことで一時的に鳴りを潜めていますが、政府・官僚は日本の国家財政を健全化するための一つの有効な(?)選択肢として、常に『消費増税』という手段を検討しています。
ただ、これに対して野党はもちろん国民・専門家の中でも賛否両論が渦巻いていて、今後、実行に移される時が来たとしても、決して一筋縄で解決するようなことはないでしょう。
個人的には、諸々の煩雑な税金を一掃することを前提条件として、消費税率を現行より引き上げるという方法が、国民全体として最もフェアな課税ができる手段になると考えています。
ただし、それが実現するかと言えば、可能性は限りなく低いとも感じていますが。
代わりに、消費税の増税反対派が強く主張しているのは、富裕層に対する課税を強化することで、日本国全体の歳入(税金)をアップさせようという方法です。
現時点、社会保険料と実質税負担を合わせた国民負担率が5割に迫る日本ですが、北欧と同等水準の十分なセーフティネットが機能しているとは言えず、低福祉・高負担国家の代表格となっています。
当然、これ(国民負担率)は累進課税の影響を受けて所得の上昇に伴い増加していきますが、実は、年間所得1億円をピークとして全体に占める負担率が低下していくという現象が起きています。
そこで、富裕層に対する増税推進派はこの点に着目して、年間所得が1億円を超える階層への課税を強化することにより、国家全体の税収もアップして財政健全化を図ろうと主張しているのです。
果たして、このロジックは現実世界でも成立するのでしょうか。
公式ブログでは過去に何度か紹介しましたが、作家の橘玲さんは著作の中で『地獄への道は善意で敷き詰められている』というフランスの神学者の言葉を引用しています。
一見、理屈として正しそうなこと(正義)を実行することで、皮肉なことに、現実世界が好ましくない方向へと展開していくことを端的に表したフレーズですね。
富裕層に対する課税強化も全くその通りで、仮に実行に移されれば、一時的な税収アップは起きたとしても、中長期的には日本経済が衰退していくであろうことが容易に想像できます。
なぜなら、(収入ではなく)所得1億円という水準は被雇用者(会社員)では絶対に到達し得ない領域であり、必然、該当するのは事業者・経営者として社会に価値・雇用を生み出す人たちだから。
そして、仮に富裕層に対する課税が強化されるようになれば、彼ら・彼女らは海外(国外)脱出して日本国に対する納税義務を外すことができる人たちでもあるのです。
つまり、それ(富裕層への課税強化)は『金の卵を生む鶏を殺す方法』と同義であり、中長期的に税収が減少することはもちろん、国内の雇用を損なうリスクすら存在しています。
余談ですが、海外の富裕層も日本に定住しようとは思わないでしょうね。
古今東西、机上の空論が現実世界でそのまま成立した試しはありません。
思慮の浅い善意を敷き詰めて、地獄に行き着かないよう注意が必要です。
井上耕太事務所(独立系FP事務所)
代表 井上耕太