今日のテーマは、『規制を強めるほど望む結果から遠ざかり、緩めるほど近付くというジレンマ』です。
ちょうど一ヶ月程前の9月10日、楽天グループ会長・三木谷浩史さんが代表理事を務める経済団体・新経済連盟から、来年度(2026年度)の税制改正に対する提言が公表されました。
少しだけ補足すると、新経済連盟とは、デジタル化やIT技術革新を軸として産業構造・制度・制作の変革を促し、日本経済の競争力ひいては国民生活の向上を目指すことを目的とする団体です。
前述の提言は『税率を引き下げて日本経済を活性化し、税収を増やして再び国内投資へ向かわせること』を基本理念としており、税と成長の好循環を実現すべく3つの柱が示されています。
一見すると、基本理念にある『税率を引き下げて、税収を増やす』という表現は矛盾しているように捉えることも出来るため、提言全体に対して懐疑的な目を向ける人もいるかもしれませんね。
しかし、私見では、これは人間の本質を理解した『正しいアプローチ』だと感じています。
例えば、主なターゲットとするものの一つに『暗号資産:仮想通貨』があり、連盟は現行の総合課税の対象から、株式等と同様の申告分離課税に変更するよう求める提言を盛り込んでいます。
この辺り、税に明るい方はご存知かも知れませんが、暗号資産(仮想通貨)に関する利益は現行制度では雑所得に分類されて総合課税の対象となり、利益に対して最大55%の税金が課されますよね。
仮に、暗号資産取引で分かり易く1億円の譲渡益を得られたとしても、単純計算して5000万円を超える金額を、利益が確定した翌年に確定申告をして税金として納める必要があるということです。
そのため、利益確定することを躊躇う個人投資家や、国税の厳しいマークを覚悟のうえ無申告(過少申告)で済ませようとする人、より税負担の少ない国・地域へ移住を試みる人たちが散見されています。
しかし、同連盟が提言する通り申告分離課税が適用されて、株式の配当・譲渡益と同等の税率に揃えられるとすれば、利益に対していわゆる『20%課税』を受けるだけで完結することになる。
前述の事例(譲渡益1億円)では納税額が3000万円超も軽減されることとなり、税率は下がれど、快く納税する人たちが増えて全体としては(税金の)増収になることが期待できるのです。
これは、今回のテーマ(暗号資産に対する課税強化)に限った話ではありませんが、どうも政府・お役人の方々は、課題解決に向けて逆行するアプローチをとることが常態化してしまっていますね。
例えば、似たような事例で、目先の税収を稼ぐために富裕層に対する課税を強化しようという動きもありますが、これも、国家として恒常的な税収増を目的としているなら完全に誤ったアプローチ。
欧米のように、イーロン・マスク級(個人資産5000億米ドル超・約75兆円)のお金持ちがウヨウヨいるなら別ですが、世界で最も成功した社会主義国・日本では自らの首を絞めることになります。
何故なら、富裕層課税を強化することで、生活環境(治安を含む)という最大の武器をみすみす殺して海外富裕層を呼び込むことが出来なくなり、国内居住のお金持ちも海外流出が加速するだけだから。
規制を強めるほど望む結果から遠ざかり、緩めるほど意図せず(?)それに近付いていく。
お金のテーマに限らず、いわゆる『北風と太陽』の理論はこの世界を広く支配している真理です。
井上耕太事務所(独立系FP事務所)
代表 井上耕太