今日のテーマは、『マクロ経済スライドのフル発動では、間に合わないという真実』です。
10月に入ってから、『年金』をテーマに記事を書き続けています。
昨日の公式ブログでは、
『私達が、快適年金ライフを送る事が出来ない理由』と題して、
8月に厚労省から公表された『財政検証』の内容を、シンプルにご紹介しました。
この検証は、
2004年の年金改革法で定められ、厚労省主導で、5年に1度のペースで、
『年金システム』の維持・財源持続可能性を調べて、発表していくものです。
今回(2019年)は、
2009年、2014年に続く3回目の検証となりましたが、
表向きに発表されたのは、『年金財源』の一時的な回復という楽観的なもの。
その理由として、
『出生率向上』『高齢化率低下』『労働参加進展』の寄与が挙げられますが、
果たして、この発表を『そのまま』受け取って良いものなのか、疑問が残ります。
しかし、
一時的な『財源改善』を公表したものの、当然の事ですが、
中長期的な視点では、そのシステム持続性について、懐疑的な見方が広がっています。
昨日も書かせて頂きましたが、
『経済成長』や『就業形態』等のパラメータ(変数)を変動させて、
それぞれのケースで『年金財源』の推移をシュミレートするものの、
どのパターンにおいても、現行制度では『財源目減り』を避けられません。
要因は様々ありますが、
上記で『現行制度では』と表現させていただいたのは、
『マクロ経済スライド』に仕組まれた、『ストッパー(制御機能)』が存在するからです。
『マクロ経済スライド』
一般的には、日常、あまり馴染みのないこの言葉ですが、
要は、『物価変動』した際、『年金支給額』を連動して変化させるシステムの事です。
勿論、
該当年の『物価・賃金変動』を直接反映すると、支給額の変動率が大き過ぎますが、
『調整率』を設定することにより、少し余裕を持たせて『連動』させる事が出来ます。
仮に、
調整率を『0.5%』で設定していた場合、該当年の賃金上昇が『1%』なら、
年金支給の増額幅は、『調整率(0.5%)』を除いた『0.5%』と決定されます。
確かに、
『物価・賃金変動』と連動する形で、
『公的年金』の支給額を都度調整していく事は、一見、正しそうに見えますよね。
しかし、
『マクロ経済スライド』には、隠された『ストッパー』が存在していて、
例えば、前述条件で、物価・賃金上昇が『0.2%』に留まった場合等は、
支給額は『▲0.3%』とされず、『前年維持』という特例が発動するのです。
この制御機能は、
『公的年金システム』の維持・継続を、真剣に考えて導入されたものではなく、
政治家の先生方が、『選挙戦に負けること』を恐れて設定しているしょうもないもの。
本来であれば、
直近10年、20年のように『デフレ経済』にあえぐ状況であれば、
その背景に連動させて、『年金支給額』を減額しなければなりません。
それでも、
本当に『そんなこと(年金支給額減額)』を実施してしまえば、
選挙戦で『大勢』を握る、高齢者層からの票獲得が出来なくなり、劣勢を強いられます。
ただ、
そのような『馬鹿げた理由』で、この『ストッパー』を残しているからこそ、
今回の『財政検証』では、約30年後の『財源枯渇』が示唆されるようになりました。
そこで、
前回調査時から検討されてきた『マクロ経済スライド・フル発動(*)』ですが、
これは、今回(2019年)のオプション試算条項からは、実質削除されています。
*マクロ経済スライド・フル発動:物価・賃金上昇が低率維持された場合でも、
『調整率』を反映させて、年金支給額を『減額』できるようにする機能の事。
代わりに公表されたオプション試算は、
『厚生年金加入資格拡大(パート労働者・非正規社員)』や、
『基礎年金加入期間の5年間延長』等が挙げられていますが、
どうしても、直接的な対策の『先送り感』が否めない状況です。
更に言えば、
先ほどから話題にしている『マクロ経済スライド:フル発動』ですが、
現行採用する『調整率』程度の指標では、年金財源の維持・継続は叶いません。
事実、
今回(2019年)の『財政検証』でも明確に示されている通り、
賃金・物価上昇に加えて、労働者人口も低率に留まる試算の場合、
2050年に、『国民年金:積立金』はリアルに枯渇してしまいます。
ちょうど、今から『30年後』に当たる試算になる訳ですが、
その頃、年金受給が開始する『当事者』としては、洒落になりません(笑)
私自身、
『公的年金』の受給は、『0(ゼロ)』として人生設計を考えていますが、
もしも、『それ(公的年金)』を組み込んでプランニングする人物がいたら『正気の沙汰』ではありません。
それでも、
依然、『9割』を圧倒的に超えるであろう日本国民が、
この問題に対して、対策を講じていないのは明らかで、
これからの社会で『貧富格差』は途轍もなく広がると予想します。
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井上耕太事務所
代表 井上耕太