今日のテーマは、『窓口負担3割の高齢者を増やすことが、現役世代の負担減に繋がらないジレンマ』です。

 

 

毎年の定期イベントと化していますが、今秋も改めて、厚生労働省は高齢者の医療給付と負担の見直しに向けた検討をスタートさせています。

 

 

主な議論の対象は70歳以上の高齢者の医療負担についてで、ここ数年は、高齢者でも現役並みの所得のある人たちは窓口負担率を3割にすることが継続的に話し合われています。

 

 

先日、日本初の女性首相となる高市早苗・第104代内閣総理大臣が誕生しましたが、連立を組んだ日本維新の会とも『(社会保障の)年齢によらない真に公平な応能負担の実現』は事前合意しています。

 

 

恐らく、本公式ブログのコア読者の方々は、年金・健康保険に代表される日本の社会保障システムが、危機的状況に瀕して久しいことは理解されていますよね。

 

 

一見すると、高齢者の窓口負担(医療費)3割対象者を拡大させることは課題の解決にポジティブに作用しそうですが、現実はそこまでシンプルではないというのが不思議なところです。

 

 

少しだけ情報を整理すると、議論にあがる高齢者の医療費・窓口負担については、年齢が70ー74歳の人たちは全体の2割、75歳以上の後期高齢者は全体の1割とすることが原則で定められています。

 

 

そして、高齢者の自己負担を除く医療費(8ー9割)を10とした時、それらの1割は高齢者自らの保険料負担、4割は現役世代からの支援金、残りの約5割は国・自治体の公費負担で賄われています。

 

 

以前であれば、日本人の大半は60歳もしくは65歳で定年退職をして、65歳以降は公的年金による悠々自適ライフを送るという理想的な社会(?)は存在していました。

 

 

ただ、そのような理想郷はすでに破綻していることに加えて、日本国内の人材不足という課題も合わさり、近年では65歳以上でも働き続ける選択をする人たちが多数派を占めつつあります。

 

 

そして、高齢者(65歳以上)に該当していても、基準値以上の収入がある方々については、医療費の窓口負担を現役世代と同等(全体の3割)にするという仕組みがあるのです。

 

 

しかし、高齢者の(医療費)窓口負担率を3割に引き上げることは、国家の社会保障費削減には寄与するものの、現役世代の負担軽減には繋がらないという悩ましいジレンマが存在しています。

 

 

何故なら、原則の1ー2割負担であれば投入された公費(残りの約5割に相当)部分が打ち切られて、高齢者の自己負担以外の9割に相当する部分に『現役世代からの支援金』を充当するシステムだから。

 

 

つまり、政府が訴求する『真に公平な応能負担の実現』を追い求めれば、皮肉にも、巡り巡って現役世代はさらなる負担を強いられるようになるのです。

 

 

ただでさえ、高齢者人口が飛躍的に増加していくこれからの社会では、現行ルールのままであっても、現役世代の社会保障負担は青天井とは言わないまでも致命的に上昇することが予想されます。

 

 

その上で、それ(社会保障負担の増加)がさらに加速するとなれば、医療の分野に限定されず、様々な分野にネガティブな影響が波及していくことが懸念されますよね。

 

 

ちなみに、高齢者の医療費・窓口負担3割対象者の拡大と併せて、自己負担以外の部分の公費投入ルールを原則(1−2割負担)のシステムに揃える変更を行う場合、年間5000億円超の追加費用が発生します。

 

 

裏を返せば、医療費・窓口負担3割の対象者を拡大することで、国家サイドから見れば公費投入を免れることができ、年間5000億円を超えるコストを削減できるということです。

 

 

今後、母数(65歳以上、更には75歳以上の高齢者人口)が激増していくことまで考慮すると、将来的には年間1兆円に迫るコスト削減効果を発揮することになるかも知れません。

 

 

繰り返しますが、日本の社会保障改革は待ったなしのところまで来ています。

 

 

もちろん、これまでは選挙を見据えて『聖域』とされてきた、高齢者に対する社会保障(年金・健康保険)給付にもメスが入ることは免れ得ないでしょう。

 

 

しかし、それは必ずしも現役世代の負担軽減に繋がるわけではないことは、私たち日本国民も理解しておく方が良さそうです。

 

 

井上耕太事務所(独立系FP事務所)

代表 井上耕太

ABOUTこの記事をかいた人

井上 耕太

・独立系FP事務所【井上耕太事務所】代表。
・1984年4月21日生まれ。岡山県津山市出身。
・2008年 国立大学法人【神戸大学】卒業。

【保有資格】
・CFP®(国際ライセンス:認可番号 J-90244311)
・1級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格:認可番号 第F11421005598号)

【活動実績】
・個人面談【人生を変えるお金のセッション】受講者は400組を超えており(*2022年4月時点)、活動拠点・大阪のみならず、全国から面談依頼が舞い込む。

【クライアント】
・経営者、医療従事者(医師、看護師、薬剤師 etc.)、会社員(上場企業勤務、若しくは、年収500万円以上)

【活動理念】
・自らの情報提供・プラン提案により、クライアントさんの【経済的自由】実現を初志貫徹でサポートする。

■詳細なプロフィールはこちら■
https://michiamokota0421.com/profile