今日のテーマは、『覇権国・米国経済のマイナス成長、相互関税戦争に勝者は存在するのか』です。
昨日4月30日、米商務省の公表によると、今年(2025年)1ー3月期における米国のGDP(国内総生産)速報値は前期比として年換算0.3%のマイナス成長。
この数字は昨年10ー12月期の2.4%プラスから大きく押し下げられたもので、四半期単位として、覇権国・米国が3年ぶりのマイナス成長に陥ったことを意味します。
直近数年間を振り返ると、米国のGDPは2023年に+2.9%、続く2024年は+2.8%と、成熟期に突入した先進諸国の中では唯一高い成長率をキープして来ました。
しかし、ここにきて数字でその鈍化がはっきりと示されたことで、大きなターニング・ポイントを迎えたことが明確になりました。
動向が変化した理由のひとつに挙げられるのは、間違いなく『相互関税戦争』です。
ご存知の通り、米・トランプ政権は選挙戦からつづく公約の通り、国内製造業の復活により『強い米国経済』を取り戻すことを最重要課題として位置付けています。
優遇産業は『自動車』と『造船業』の2トップですが、この分野に限らず、基本的に『製造業』とされるものはすべてを米国内で賄いたいと考えているようです。
確かに、国内であらゆる製品が製造されて他国に輸出されるとなれば、米国の利益は最大化されて、双子の一方である貿易赤字も解消に向かうことが期待されます。
もちろん、相互関税は恒久的な制度ではないと理解しながらも、その影響を最小限に留めるべく、世界各国の企業が対応を進めているのが実情です。
例えば、製薬大手のスイス・ロシュは、今後5年間で米国に500億ドル(7兆円超)もの巨額投資をすることを発表し、同・ノバルティスも5年間で230億ドル(3兆円超)を投じて研究施設や製造拠点を設立すると追随。
日本企業では、業界新参の富士フィルムが30億ドル(4000億円超)の受託生産契約を締結したことを発表し、米国内の医薬品売り上げを7000億円まで高める計画を公表しています。
現時点、医薬品産業は『相互関税』の対象品目から除外されていますが、良くも悪くもルールはいつ変更されるか分からないため、先手先手で対策を講じているということでしょう。
そして、すでに実害(?)が出て来ている分野もあります。
中国のアパレル・ネット通販大手のSHEIN(シーン)は、米国向け製品の価格引き上げを正式に発表し、最大値上げ幅は377%とこれまでの約4倍に跳ね上がるとしています。
この事例に限らず、直近、米国内で日用品の値上げは頻発しており、強い米国を取り戻そうとして実行している政策が、皮肉にもインフレ要因として米国民を苦しめ始めているのです。
トランプ・共和党は、前バイデン・民主党政権のインフレ対策の愚かさを指摘して選挙戦に勝利しましたが、その時に振りかざしていた刀は今、確実に自らへと返ってきています。
果たして、相互関税戦争を仕掛けることにより、米国は自らが望む未来を実現できるのか。
私見では、本当の『勝者』など存在し得ない戦いが、今、スタートしたのだと見ています。
井上耕太事務所(独立系FP事務所)
代表 井上耕太