今日のテーマは、『過去2年間でタンス預金が半減してしまったことに考えられる2つの理由』です。
先月末の公式ブログでは『昨年7月に実施された紙幣刷新なるイベントは、果たして何だったのか』と題して、1年前のイベント前後で国内のタンス預金が60兆円規模まで減少したことを紹介しました。
恐らく、新紙幣が導入されたことで『新しいものに切り替えなくては』という深層心理が働いていて、私も含めた大半の国民が人として本質的に備わる性質をうまく利用されてしまったと感じています。
当然、炙り出された巨額資金(タンス預金)は白日のもとに晒されたことで、相続・贈与等のイベントが発生した際、政府サイドとしてもオフィシャルに課税することが出来るようになりました。
一説によると、紙幣刷新は周辺コストも含めて約2兆円が費やされたと試算されていますが、これらの報道を見る限りは、事後1年ほどの短期間で『黒字化』した大成功イベントだったと想像します。
さらに、その後の続報では今年7月時点でそれ(タンス預金)が47兆円規模まで減少したことが判明しており、100兆円超と推測されたピークから半減してしまったことになります。
なぜ、これまで『不動』だった資産が、突如として大移動を始めることになったのでしょうか。
もちろん、冒頭から話題にする紙幣刷新が一つの起点になったのは確かですが、それに加えて大きく2つの理由があるのではないかと推察しています。
一つ目は、日銀・黒田政権下で進められた『ゼロ金利』の呪縛がようやく解かれて、植田政権下で金利が復活しつつあることで、金融機関(銀行)の預金金利がじわじわと上昇してきていること。
仮に、1000万円を保有することを考えた時、当然ながら『タンス預金』をしていては受け取ることができる利子など発生し得ません。
しかし、銀行に預け入れると、流動性を確保して普通預金を選択したとしても、利子として1.6万円(税引き後の実質金利0.158%)を毎年受け取れるようになるのです。
もし、金利が据え置かれたとしても10年間で約16万円ですから、ゼロ金利がデフォルト(初期設定)にある日本人にとっては行動の動機として十分なのかも知れません。
ただし、これ(政策金利の上昇)はタンス預金の炙り出しを第一義に実行したことではなく、日本経済全体を正常化させようと実行した際の副産物に過ぎない。
恐らく、政府サイドからすれば嬉しい誤算レベルの話でしょうが、ラッキーパンチでも何でも当たりさえすれば良く、結果オーライだと考えられているでしょう。
そして、もう一つの理由は意図的に狙ったもので、マスコミ各社に働き掛けて、全国で相次いだ広域強盗事件を大々的に報じることで、国民(特に、地方都市の高齢者)の不安心理を煽ったことです。
もちろん、強盗は卑劣な重罪ですし、被害に遭われた人たちの中には怪我だけでなく命を脅かされた方々もいるので、それをトップ・ニュースとして報じることの社会的意義は理解するつもりです。
しかし、これらの報道を連日繰り返し目にすることで、生起確率として1%を大きく割り込む事象に対して、その10倍も100倍も不安を覚えた国民も多くいたのではないかと想像します。
必然、自宅で資産を保有することに危機感を感じた方々は大挙して、これまで長年に渡り選択してこなかった『金融機関に預ける』という行動を起こすようになる。
この読みが合っているとすれば、紙幣刷新を遥かに凌ぐ費用対効果を叩き出したことになります。
ここまで挙げてきた例に限らず、私たちは様々な『リスク』に囲まれながら日々を生きています。
ただ、それら(リスク)を正しく評価するためには、感情という移ろい易いものに支配されるのではなく、客観的な視点を持ちながら冷静に判断していくことが不可欠だと感じています。
井上耕太事務所(独立系FP事務所)
代表 井上耕太