今日のテーマは、『返済不能にも関わらず最高格付を維持してきた米国債が抱えるジレンマ』です。
意外にもメディア等では大きく報じられていませんが、先週末、個人的には興味を引かれる一つのエポック・メイキングな出来事がありました。
それは、世界3大格付会社の一角:ムーディーズ・レーティングスによる、米国債の信用格付けの引き下げです。
これまで、大手3社の中では最後まで最高格付(Aaa:いわゆるトリプルA)を維持してきた同社ですが、先週16日からはAa1(ダブルA1)格へと一段階引き下げられています。
ちなみに、大手3社のうち最も早く米国債の格付けを最高位から引き下げたのはスタンダード&プアーズ・グローバル・レーティングスで、今から遡ること約14年前となる2011年のこと。
その後、フィッチ・レーティングスも2023年8月に最高格付を取り下げており、今回の出来事により、米国債は大手3社からの『最高位のお墨付き』を失ったことになります。
しかし、実態(米国の国家財政)を知っている方々からすれば、逆になぜ今まで米国債が最高格付を維持してきたのか・今尚高い信用を得ているのかの方が不思議に感じますよね。
何故なら、覇権国・米国も日本と同様に慢性的な赤字体質に陥っており、累積債務は約36兆米ドルと、現行の為替レートで換算して約5000兆円という天文学的なレベルに達しているから。
*経済規模が異なるので一概に比較はできませんが、国家財政が瀕死状態とされる日本の累積債務(約1300兆円)の4倍に相当する超巨額債務です。
今年(2025年)1月にスタートしたトランプ・共和党政権は政府機関の大幅なダウンサイジングにより歳出削減を画策していますが、長年かけて染み付いた体質はそう簡単に改善されません。
例えば、長年の不摂生により体重が100キロを超えている人が、急激に生活スタイルを変化させて、食事制限・運動療法による減量ができる可能性などほぼないのと同じことです。
現状、米・連邦政府の債務負担の対GDP(国内総生産)比はちょうど100%前後で推移しますが、今から10年後の2035年にはこの数字が約134%の水準まで上昇すると予測されています。
米国もPB(基礎的財政収支)健全化の道のりは険しく、黒字化はおろか、これまでの路線と大きく変化しないのではないかという予測が今のところ優勢になっています。
このような状況(惨状)にも関わらず、なぜ米国債は(最高位からは転落したと言えど)高い信用格付を維持することが出来るのでしょうか。
その理由は、大きく2つ存在しています。
一つは、パワーバランスの関係から、どれだけ大量に新たな国債を発行したとしても(残念ながら我らが日本国を筆頭に)それを買い取ってくれる国が存在し、消化していくことが出来るから。
そして、もう一つは『米ドル』という基軸通貨特権を保有している為、いざとなればゲーム・チェンジャーとしての権力を行使できる立場にあるから。これは、想像以上に大きな力です。
恐らく、米国の『赤字体質』はこれからも大きく変わることはなく、日本と同様、理屈上で言えば累積債務を返済・解消していくことなど不可能です。
現時点、米国債の見通しについて悲観的な意見は少数派ですが、正直な話、私自身も数十年〜100年後にどのような結末が待ち受けているかは分かりません。
しかし、このような借金経営を未来永劫に続けていけるはずもなく、私が生きている間かどうかは分かりませんが、これをトリガー(引き金)とした経済危機はどこかで必ず訪れることになります。
少なくとも、莫大なリスクが積み上がっているという事実だけは認識しておく方が良いでしょう。
井上耕太事務所(独立系FP事務所)
代表 井上耕太