今日のテーマは、『数字上は裕福なはずなのに、なぜ私たち(日本人)は閉塞感を感じるのか』です。
週明け12日、財務省は国際収支速報を公表し、2024年度の経常収支の黒字額が30兆円の大台を突破することが判明しました。(*本題から話が逸れるため、内訳はここでは触れません。)
経常収支とは、日本が海外とのモノ(貿易)やサービスの取引、投資収益のやり取りなど経済取引で生じた収支を示す経済指標であり、黒字額が大きくなるほど、国家は経済的に潤うことを意味します。
ちなみに、昨年度の黒字額は前年(2023年)度のそれ(約26.1兆円)を4兆円を超えて上回っており、比較可能な1985年以降、直近40年間での過去最大を大きく更新しています。
また、今年(2025年)3月単月の経常収支は前同比6.7%プラスの約3.7兆円の黒字となり、このままのペースを維持すれば、今年度は更なる黒字の積み増しが期待できることになります。
一般に、家庭であれ、企業・国家であれ、ある期間の収支が大きく黒字に傾くならば、当然ながら、時間の経過とともに経済的にも精神的にも『楽』に感じる場面が多くなるはずです。
何故なら、私たちが生きる資本主義社会において『お金』は決して無視できないツールであり、裏を返せば、それがあることにより多くの『苦痛』を回避することが出来ることは事実だから。
しかし、数字上は大きな経常収支の黒字を計上してるにも関わらず、私たち(日本人)の暮らしは楽になるどころか年々厳しくなっており、理屈と実態が大きく乖離してしまっています。
同じことは『対外純資産』というテーマでも起きていますよね。
数字上、日本のそれ(対外純資産)は2023年末時点で既に500兆円に迫っており、1990年以降、30年以上も連続して世界第1位の座に君臨しています。
それ故、天文学的レベルの累積債務(赤字国債)を積み上げながら、日本は財政破綻しないという都市伝説が語り継がれる訳ですが、こちらの話も私たちの常識的な感覚からは大きく乖離します。
確かに、理屈上、日本が世界一の債権国であるという事実に異論はありませんが、同時に、債権は約束通りに返済を受けることが出来て初めて意味を持つことも忘れてはなりません。
そもそも、国債費(利払い・償還)が一般会計全体の4分の1を占めて、自らが借金経営をしている状況では、他人(他国)に金を貸している場合ではないというのが私の考えですが。
経常収支にしても、対外純資産にしても、数字的に見れば日本は大丈夫なのかも知れませんが、理屈のみが通用する仮想空間に留まり、机上の空論に終わってしまっては全くの無意味です。
脳科学(認知科学)と同様、現実世界とリンクして認識されなければ、それそのものが存在していないことと等しくなります。
果たして、日本という国家、そして私たち日本人は本当に豊かになっているのでしょうか。
数字だけ見ればそう解釈される場面もありますが、実態との乖離はこれからも続きます。
井上耕太事務所(独立系FP事務所)
代表 井上耕太