今日のテーマは、『日本の公的年金システムをめぐる綱渡りはこれからも続いていく』です。
少し前の話題になり恐縮ですが、今年6月に年金制度改革法が成立し、就職氷河期世代を中心とした低年金者らの基礎年金の底上げを実施するか否か、5年後に判断するという規定が盛り込まれました。
年金制度改革といっても、決して今年が特別という訳ではなく、長年のツギハギにより所々に綻びが見え始めた日本の公的年金システムでは、大なり小なり毎年何かしらの改定(修繕)が行われています。
メインテーマとされた基礎年金の底上げは、本来であれば今直ぐ実施したいのが本音ですが、財源確保と負担者の理解が間に合わなかったため5年後に先送りしたというのが実際のところです。
その理由は、政治家もテレビ・タレント並の人気商売であるため、選挙に負けて『タダの人』になるリスクを誰も積極的に取りたくないからです。
年金の話に戻ると、1階部分に相当する基礎年金は、その半分が国庫により負担されていますが、もう半分はどこからか財源を確保して、足らずがある場合は充当する必要があります。
今回、ターゲットとされるのは国民が一律に加入する基礎年金部分の底上げですが、その財源としては、もっぱら厚生年金(2階部分)の増収分を充当するという公算が大きくなっています。
以前であれば、一定規模以上の会社(大企業)の正社員が対象のイメージだった厚生年金ですが、近年の連続した制度改革により、労働時間等の要件を満たせばパートも加入可能な制度へと変貌しました。
もちろん、表向きの理由は『将来、受給できる年金額のアップ』とされていますが、その将来に至る以前に、目先の年金財源を確保することが本丸であることは子どもでも理解することが出来ます。
また、段階的に引き下げられてきた企業規模要件も現行の51人以上から、2035年までを目標に実質的に廃止されることが既に決まっています。
最終的には従業員数10人以下の小規模企業まで対象になりますが、これまで強制加入だった1階部分(基礎年金)だけでなく、2階部分(厚生年金)までが殆どの国民でデフォルト設定になるのです。
さらに、2年後(2027年9月)からは年収798万円以上の会社員の厚生年金保険料引き上げも決定されており、100%徴収可能な厚生年金部分からの財源流用は今後も続くことになります。
確かに、話題に上がる就職氷河期世代を中心とした低年金(受給)者へのサポートを拡充していくことは、国家が提供するセーフティネット(社会保障)として必要なことの一つかもしれません。
しかし、日本の公的年金システムはそもそも全体として大きなリスクを孕んでおり、現在、直面する課題のすべてを解決することが不可能だということも事実です。
よって、2025年以降も日本の公的年金システムをめぐる『綱渡り』は続いていく。
先人の努力により非常に恵まれた時代に生きている私たちですが、社会を取り巻く環境の変遷期にあたり、社会保障には大きなリスク(欠陥)を抱えていることもきちんと理解しておくべきだと考えます。
井上耕太事務所(独立系FP事務所)
代表 井上耕太